総理大臣、法務大臣に対する政策提言(要請書)
2009年11月27日
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿
法務大臣 千 葉 景 子 殿
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-28-13-8F
菊田法律事務所気付
NPO法人監獄人権センター
TEL / FAX 03-3259-1558
代 表 村井敏邦
副代表 菊田幸一
副代表 海渡雄一
事務局長 田鎖麻衣子
要請書
第1 要請の趣旨
1 拷問禁止委員会、自由権規約委員会による総括所見をふまえて、死刑制度に関する調査会を設置し、死刑廃止に向けた調査検討を行うとともに、その間は死刑の執行を停止すること。
2 無期刑受刑者の仮釈放制度を見直し、受刑者自身に審査請求権を付与すること。
3 行刑改革会議の示した理念に基づいて、2011年(刑事被収容者処遇法の施行から5年以内)までに要求されている同法の改正を確実に実施すること。
4 社会奉仕命令や未決拘禁代替措置などを積極的に導入することにより、過剰拘禁問題を解決すること。
第2 要請の理由
日本の刑罰・刑事拘禁政策は、長年にわたり国際人権基準に照らし厳しい批判にさらされてきました。しかし新政権を迎えた今、これを国際水準へと引き上げる大きなチャンスが到来したものと、当センターとしても心より期待するものです。もとより、この分野に関する問題は極めて多くの困難を抱えておりますが、それらは人権問題に造詣の深い千葉法務大臣によるイニシアチヴにおいてこそ、克服が可能なものと考えます。課題が山積する状況において、実現に向けてぜひとも優先的に取り組んで頂きたい事項を以下に掲げます。
1 死刑廃止を検討する死刑制度調査会の設置と死刑執行の停止
当センターは、アムネスティ・インターナショナル、国際人権連盟(FIDH)、世界死刑廃止連盟(WCADP)といった国際人権NGOとともに、日本の死刑問題を国連条約機関をはじめ国際社会に正確に伝えるという重要な活動を担ってきました。死刑の問題が、今や日本が抱える最大の人権問題であることは、国際社会の常識です。国連の条約機関や人権理事会による勧告においても、死刑執行の停止と、死刑廃止に向けた措置をとることが繰り返されております。また、飯塚事件の例にみられるように、誤った死刑執行の可能性を完全に断つという意味においても、死刑制度をトータルに見直す作業を開始し、その間の死刑執行を停止することは、喫緊の課題です。
2 無期刑受刑者の仮釈放制度の見直し
現状の無期刑の実態は、すでに仮釈放の可能性をほとんど断たれた「終身刑」と化しています。社会復帰の適格がありながら、高齢で帰住先がないために、一生を塀の中で終える人も少なくありません。昨年法務省において開催された勉強会の結果を踏まえ、無期刑受刑者の仮釈放実態については情報公開が進みましたが、仮釈放制度の適正化・客観化に向けた改革はほとんど手つかずのままです。無期刑受刑者に対して仮釈放審理を求める請求権を付与し、その請求にあたっては代理人弁護士の選任を可能とすること、審理手続を準司法化し公正さを高めるなどの改革が早急に求められます。
また、死刑廃止の議論との関連においても、たとえば、仮釈放申請までの最低服役期間など、無期刑受刑者に対する仮釈放制度を新たな角度から議論することが必要と考えます。
3 刑事被収容者処遇法の抜本的見直し
刑事収容施設および被収容者等の処遇に関する法律(刑事被収容者処遇法)は、その附則により、施行から5年以内に見直しを行うことが求められています。同法は受刑者処遇法の改正法であるため、見直し時期は2011年と迫っています。
施行から年数を経るにしたがい、当初の新処遇法の理念を蔑にした実務が各地の刑事施設でみられるようになり、大きな人権問題となると同時に、こうした実務の横行を許す法の規定自体を見直す必要性が高まっています。また、徳島刑務所暴動事件にみられるように、先般の法改正で改革が見送られた医療や懲罰制度、そして代用監獄制度など、積み残しの課題も多くあります。したがって、2011年には以下の諸点を含めた、刑事被収容者処遇法の全面的見直しが、確実になされる必要があります。
1)代用監獄制度の廃止への道筋をつけ、また、無罪の推定を受ける未決被収容者の処遇を抜本的に改善すること。
2)自由権規約委員会による総括所見第21項をふまえて、隔離だけなく、制限区分第4種、調査のための隔離など様々な形態の独居拘禁を全面的に再検討し、必要最小限度の場合に限定すること。
3)面会、手紙などの外部交通について課されている、法の理念にも反する不必要な制約を撤廃すること。
4)刑事施設医療を抜本的に改革し、被収容者の健康保険への加入を認め、医療を法務省の所管から厚生労働省の所管に移管すること。
5)刑務作業に対する報酬を最低月額2万円保障し、年金など社会保険への加入を認めるなど受刑者の社会復帰のための基盤を整備すること。
6)視察委員会の意見に対する施設の応答義務を認め、事務局機能を充実するなど視察委員会の強化を図ること。
7)不服申立制度を強化し、面会の制限や執行の終了した懲罰も実質的な審査の対象とすること。
4 非拘禁措置の積極的導入による過剰収容の解決
法制審議会の被収容人員適正化等方策に関する部会において、拘禁によらない措置の導入可能性の議論が開始されてから2年が経過しますが、現時点において同部会では、非拘禁措置の導入については、刑の一部の執行猶予制度や、社会貢献活動を特別遵守事項とする制度など、極めて限定的な範囲においてしか導入が検討されていません。しかし、そもそも、人の自由を奪う拘禁は最後の手段であって可能な限り社会内処遇によるべきであり、また、やむなく拘禁措置をとった場合であっても、拘禁期間を最小化し円滑な社会復帰を可能とするためのシステムが必要です。これらは罪を犯した人たちの社会への再統合に資するとともに、現在もなお続く過剰収容状況の抜本的に解決するものです。上記部会における再検討を含め、新たな法務大臣の主導による思い切った方策を、強く望みます。