森英介法相による2度目の死刑執行に抗議する声明
2009年1月29日 監獄人権センター
麻生内閣と森英介法相は本日(1 月29 日)、牧野正さん(福岡拘置所)、 川村幸也さん(名古屋拘置所)、佐藤哲也さん(名古屋拘置所)、西本正二郎さん(東京拘置所) の4 人に対して死刑執行に行った。私たち監獄人権センターは、本日の死刑執行に強く抗議する。
今回の死刑執行は森英介法相による2 度目の執行であり、前回10 月28 日の執行から 3 か月しかたっていない。一昨年12 月の鳩山邦夫・前々法相による執行以来、 日本政府はほぼ2 か月に1 度のペースで死刑執行を行ってきた。今回の執行は、 日本政府が今後も昨年同様のペースで死刑執行を行う態度を示したものと受け止めざるをえない。
国連総会は昨年12 月18 日、死刑執行の一時停止などを求める決議を、賛成106 か国、 反対46 か国、棄権34 か国と一昨年を上回る賛成多数で2 年連続で採択した。 国連総会決議から1 か月もたたずして行われた今回の執行は、 決議に示された国際社会の死刑廃止に向けた強い意思に対する挑戦である。
今回執行された4 人うち、牧野正さんと西本正二郎さんは、 いずれも控訴を自ら取り下げ、一審限りで死刑判決が確定しており、 牧野正さんについては公判段階から精神障害の存在が争われていた。 昨年10 月の国際人権自由権規約委員会の日本政府報告に対する最終見解では、 「高齢者に対する死刑執行や精神疾患を持つ人の死刑執行については、 より人道的なアプローチがとられるべきである」「死刑事件に関しては必要的上訴手続きを設けるとともに、 再審請求や恩赦の出願がなされている場合には執行停止の措置をとるべきである」と明確に勧告されている。 今回の執行は、こうした勧告を無視した暴挙である。
近年、自ら上訴を取り下げる死刑囚が目立つが、それ自体不自然なことであり、 死刑判決を受けた被告が上訴すること自体をバッシングするマスコミや日本社会の雰囲気が、 そうさせている面が否定できない。前々回執行の山本峰照さん(控訴取下げ)、 前回執行の高塩正裕さん(上告取下げ)に続いて、今回も上訴を経ていない死刑確定者の執行を安易に行ったことは、 日本が批准している国際人権自由権規約の精神にも反するものである。
すでに国連加盟国の7割にあたる138 か国が法律上・事実上死刑を廃止し、 死刑存置国は59 か国にすぎない。残る主要な死刑存置国である中国、アメリカも死刑執行を減らしている。 アメリカも死刑執行はピーク時(1999 年)の2 分の1 に減っており、死刑判決もピーク時(1994 年) の3 分の1 に減っている。アメリカの昨年の死刑執行数は37 人にとどまっている。そうした中で、 日本だけが一昨年は9人、昨年は15 人と死刑執行を急増させていることは異様と言うほかはない。 中国やアメリカと比しても、日本の犯罪状況が悪化している事実は一つもない。 殺人の認知件数は昨年やや上昇したものの、犯罪による死亡者数とともに40 年以上一貫して減少傾向が続いている。 日本だけが死刑なしでやれない理由など一つもないのである。
昨年秋以降、アメリカ発の世界経済危機が深刻化し、 日本国内でも非正規雇用者を中心に失業問題が深刻化している。 こうした中で、労働市場の規制緩和や福祉切り捨てなど市場原理主義による過去の政策の見直しを迫る声が日増しに高まっている。 今こそ、自己責任を強調する市場原理主義と手をたずさえて進展してきた厳罰化政策も、真剣に見直すべき時機である。
「未曾有の経済危機」に何らの対応もせずに問題を先送りしてきた政権が、 死刑執行だけはこれまで通り続けるということは、許されるものではない。 麻生内閣と森英介法相は死刑執行を直ちに停止し、 死刑廃止議連など各界各層とともに死刑制度の廃止に向けた議論を開始すべきである。