NPO法人監獄人権センター

STATEMENT声明・意見書

広島少年院の教官による被収容者少年に対する暴行・虐待事件に関する声明

声明・意見書

2009年6月16日  NPO法人監獄人権センター
代表 村井敏邦   副代表 菊田幸一
副代表 海渡雄一   事務局長 田鎖麻衣子

6月9日、広島少年院(収容定員102名)の4名の教官が、 被収容者少年に対する暴行・虐待を行ったとして逮捕された。 5月22日付けで広島矯正管区が発表した中間報告および報道等によれば、 暴行・虐待の内容は、少年の顔や身体を平手・手拳で殴打する、足で少年の身体を蹴る、 トイレに行かせずに失禁させる、シャワーの水を浴びせおむつの着用を強要する、 「死ね」と言いながら首を絞めるなど、苛烈を極めている。中間報告時点において確認された事案だけで約100件、 被害者は約50名にものぼり、暴行・虐待を行っていた教官は逮捕された4名にとどまらないという。 これほど深刻な人権侵害が相当期間にわたって大規模に繰り返されていた事実から、 もはや本件が特定の教官らだけに帰責できる問題ではないことは明らかであろう。

本件によって、まず思い起こされるのは、2002年に発覚した名古屋刑務所事件である。 2名の死亡者まで出したこの忌まわしい事件を機に、行刑改革会議が発足し、 監獄法改正(受刑者処遇法およびその改正法である刑事被収容者処遇法の成立)へとつながった。 成人施設における処遇も今なお多くの改善を要する状態にあることは間違いないが、新たな立法により、 被収容者の人権尊重と改善更生の理念が明確化され、刑事施設視察委員会の設置や、不服申立て制度の新設などがなされた。 ところが、こうして成人矯正分野での改革が進む一方で、少年矯正に関しては何ら手が触れられないまま経過していた。 もとより、少年院は、少年の健全育成という少年法の理念のもと、少年に矯正教育を授ける施設であって、 成人を収容する刑事施設とは本来的に異なる性格の施設と考えられてきた。 実際に、少年の立ち直りのために心血を注いできた多くの教官たちによる、 心を打つまでの努力の積み重ねがあり、今日の少年矯正を支えていることは事実である。 その一方で、人の自由を奪う拘禁施設は、一般的に被収容者の人権が傷つけられやすい環境であることは否めず、 人権侵害に対するセーフガードが必要である。 まして、少年は成人と比較し、自己が受けた人権侵害や不利益について外部の第三者等に訴える能力に乏しいため、 問題処遇が生じた場合であっても外部には明らかになりにくい。ゆえに、少年を収容する施設においては、 外部の独立した視察機関や、実効性ある不服申立て制度の整備の必要性が成人以上に高いといえる。

本件を受けて現在、法務省では少年院法の改正を検討中であるというが、 今一度、1998 年(第1回)および 2004 年(第2回)に、 国連・子どもの権利委員会が日本政府報告書審査にあたり採択した最終所見の内容を想起し、 検討に入るべきである。特に、第1回審査時の所見においては、条約「第 37 条、第 40 条及び第 39条、及びその他の関連する基準、 例えば、北京ルールズ、リヤド・ガイドライン、自由を奪われた少年の保護に関する国連規則との適合性」が懸念事項とされ、 「独立した監視及び適切な不服申立手続が不十分であるこ」が特に懸念される項目として挙げられ、 これを受けて「監視及び不服申立手続、代用監獄における状況に特に注意が払われるべきである」と勧告している。 第2回審査時においても、上記諸基準の「完全な実施の確保」として、同内容が引き続き勧告されている。

現在でも毎日のように、広島少年院における不祥事の続報がなされており、問題は深刻さを増すばかりである。 施設外の独立した第三者からなる視察委員会制度、施設外に対する不服申し立て制度とそれに対する第三者による諮問機関の設置をはじめ、 少年院・少年鑑別所と成人矯正施設における人事交流のあり方の見直しなどを含めて、 少年法の理念および子どもの権利条約を始めとした国際人権規準に立ち返った処遇を実現するために必要な改革が、 真摯に行われることを強く望む。

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