私たち市民団体は、いまこそ取調べの可視化(全過程の録音・録画)を実現するよう日本政府に求めます。
「志布志事件」、「足利事件」、「氷見事件」、そして「厚労省元局長事件」をはじめ、ここ数年で明らかになった多くのえん罪事件は、長期間にわたる代用監獄での勾留と密室における取調べが、無実の人を虚偽の自白に追い込み、えん罪を生み出すという、日本の刑事司法の問題点を明らかにしました。
こうした刑事司法の問題点は、5 月24 日に、水戸地方裁判所土浦支部が再審無罪判決を言い渡した「布川事件」でも改めて浮き彫りになりました。裁判所は、この事件で強盗殺人罪により無期懲役刑に処せられた桜井昌司さん、杉山卓男さんの捜査段階における自白の信用性を否定し、その任意性も疑いを払拭できないなどして再審無罪の判決を言い渡しました。
警察、検察、裁判所など法の執行に携わるすべての関係者および関係機関は、こうした相次ぐえん罪・再審無罪事件について真摯に反省し、二度とえん罪を生みださないために、国際人権基準に沿って、再発防止に向けた具体的な刑事司法制度の改革を早急に行う必要があります。
特に、日本政府は、国連の人権諸機関が再三にわたって勧告している、取調べの全過程の録音・録画を早急に導入すべきです。取調べの全過程の録音・録画は、多くのえん罪被害者、そして、日本の大多数の市民が求めている喫緊の課題であると同時に、日本の刑事司法を国際人権基準に適ったものとするための全面的改革に向けた第一歩です。
この間、度重なるえん罪事件の発生による社会的批判を受け、法務省や警察庁その他捜査機関においても、可視化の必要性が検討されています。また、「厚生労働省元局長事件」を受けて法務大臣が設置した「検察の在り方検討会議」は、今年3 月31 日に提言書を公表し、特捜部及び特別刑事部において取調べの録画・録音を積極的に試行するとともに、知的障がいによりコミュニケーションに支障のある被疑者等に対する検察官の取調べについて、検察の運用により、録音・録画の試行を行うことを提言しています。この提言を受け、江田五月法務大臣は、検察庁特捜部及び特別刑事部の独自捜査事件で身体を拘束した事件について、全過程の録音・録画を含む、録音・録画の試行を指示しています。しかしながら、全過程の録画の試行が実施される事件は一握りにすぎないと考えられ、この間問題となってきたえん罪事件の再発防止策として十分なものとは到底いえません。
私たちは、江田法相による試行の決定を評価しつつも、取調べの全過程の録音・録画を基本とした立法作業を早急に進めることを政府に要請いたします。そして、この立法の一刻も早い実現のために与野党が十分に協力するよう、ここに強く呼びかけます。
2011年5月26日
取調べの可視化を求める市民団体連絡会
「取調べの可視化を求める市民団体連絡会」は、2011 年12 月2 日に開催された大集会「待ったなし!今こそ可視化の実現を」をきっかけに立ち上がった連絡会です。
呼びかけ団体
アムネスティ・インターナショナル日本
監獄人権センター
人権市民会議
日本国民救援会
ヒューマンライツ・ナウ