NPO法人監獄人権センター

STATEMENT声明・意見書

矯正医療の在り方に関する有識者検討会報告に関する声明

声明・意見書

2014年3月3日
NPO法人監獄人権センター

本年1月21日,矯正医療の在り方に関する有識者検討会は,「矯正施設の医療の在り方に関する報告書~国民に理解され,地域社会と共生可能な矯正医療を目指して~」を法務大臣に提出した。

刑事施設における医療の問題は,既に今から10年以上前,2003年12月に出された「行刑改革会議提言~国民に理解され,支えられる刑務所へ」において一定程度指摘されていた。しかしながら,その後の法改正においては,「刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする。」との保健衛生及び医療の原則が明文化され,指名医による診療制度が創設されたほかは,従来の医療の在り方に変更が加えられることはなかった。すなわち,医療が保安面からの要請に従属し,真に必要な医療が必要なタイミングで提供されないこと,その根幹に,刑事施設における医療を,純粋な医療ではなく「矯正医療」という,矯正処遇と密接に結び付いた特殊な医療分野として捉えることの問題性,これらを克服するために不可欠な,刑事施設医療の厚生労働省への移管の必要性については,ほぼまったく議論されず,法施行後5年目の見直し作業においても,指名医診療制度以外は取り上げられなかった。

行刑改革会議提言から10年後に出された本報告書が「矯正医療の充実強化策」として提言している内容は,①矯正医療についての国民の理解,②給与水準の引き上げや兼業の許可の弾力化などをはじめとした矯正医官の待遇改善,③執務改善等の充実,④医学研究に対する支援の充実,⑤地域医療との共生,連携強化及び矯正医療の外部医療の在り方,⑥その他,となっている。しかし,提言の主眼が,「矯正医官」と呼ばれる刑事施設に勤務する医師につき,いかにしてその流出をとめ,人材を確保するか,というところに置かれていることは明白であり,「国民の理解」や「地域医療との共生」等は,医師確保に必要な条件として位置づけられている。

刑事施設で働く医師が確保できなければ,被収容者の生命身体の安全が確保できないことは明らかである。したがって,喫緊の課題として医師の確保に取り組むことは当然である。しかし,刑事施設における医療にはより根深い問題がある。この点,本報告書では,行刑改革会議提言においては取り上げられていた,被収容者の側からみた医療のニーズや,医療の保安に対する従属性の問題,さらには医療の透明性確保の問題は,医師の確保という至上命題ゆえに,敢えて置き去りにされていると言わざるを得ない。さらに,被収容者全体について詐病や不当要求を繰り返す厄介な集団として描き出し,医師が直面する困難さを浮き彫りにするという手法は,一歩間違えば,刑事施設における医療の必要性自体を否定しようとする考え方と通底しかねないものであり,大きな危惧を覚える。いうまでもなく,「すべて人は,生命,自由及び身体の安全に対する権利を有する」(世界人権宣言第3条)のであり,被収容者も決して除外されるものではない。このことは、被収容者処遇法も当然の前提としており,収容された人々が必要な医療を受ける権利は,もっとも基本的であり,かつ,もっとも傷つきやすい権利であって,その保障なくして社会への再統合はあり得ない。このことを今後の改革の基本としなければならない。

監獄人権センターは,本報告書による提言を契機として,今後,医師の確保や地域医療との連携を超えて,刑事施設医療の厚生労働省への移管という刑事施設の医療の抜本的改革に向けた取組みが開始されることを強く求めると同時に,これを期待するものである。

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