NPO法人監獄人権センター

STATEMENT声明・意見書

死刑制度が人権問題であることを否定し国際社会との対話を拒む日本政府に対して誠実に対話に応ずるよう求める声明

声明・意見書

2018年3月22日
NPO法人監獄人権センター

1 はじめに
2018年3月19日、国連の人権理事会による日本国に対する第3回普遍的定期審査のサイクルが終了した。監獄人権センターが取り組む人権課題である、刑事施設における拘禁の問題と死刑制度に関する問題について、日本政府の対応は対照的なものであった。刑事拘禁に関する勧告については、原則として勧告に沿う対応を約束しつつ、死刑制度に関する勧告についてはことごとく拒否したのである。

2 刑事拘禁に関する勧告について改善の努力を約束
刑事被拘禁者に関しては、パナマから、死刑確定者を含む被拘禁者に対する独居拘禁(隔離及び制限区分第四種)の厳格な制限を求める勧告を受けた。受刑者の医療と歯科治療、冷暖房の不備についてはスウェーデンとカナダからの改善勧告を受けた。フランスからは死刑確定者の人権保障が勧告された。デンマークからは改訂被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルールズ)に基づく受刑者の人権状況全体の改善が求められた。スペイン、ザンビアからも勧告がなされた。また、多くの国々から拷問等禁止条約の選択議定書(国際的な査察の受け容れと国内拷問防止メカニズムの設立を求めるもの)の批准が勧告された。

日本政府は、これらの勧告を明確には受け容れる(Accept)ことがなかったが、「日本は、医療と冷暖房を含む刑事施設の状況の改善が進んだこと、死刑確定者は適切な処遇を受けていることを報告する」との作業部会において述べた立場につき注記(Note)した。日本の刑事施設における医療と暖房、独居拘禁などについては、未だに大きな問題が残されている。「矯正医官の兼業及び勤務の特例等に関する法律」の制定や東日本成人矯正医療センターの開設などを通じて、医師欠員数が減少し、刑事施設医療の体制が充実されてきていることは認識しているが、被収容者が医師の診察を希望しても,診察を受けられるまでに長期間を要する、十分な治療を受けられない等の報告は依然として続いている。冷暖房の設備についても、寒冷地を除くと暖房設備はほとんどなく、しもやけなどの訴えも続いている。

しかし、国際社会からの勧告に対し、問題の所在を共有し、改善のために努力することを約束した姿勢自体は前向きに評価することができる。

3 死刑制度に関するすべての勧告を拒否
今回の審査で、日本政府に対して,死刑の廃止と自由権規約第二選択議定書(いわゆる死刑廃止条約)の批准、死刑の執行停止などを求めた国々は、実に37か国に及んだ 。

これらの中には、「次のUPR会合の前に死刑を廃止するための死刑執行の一時停止を制定する」(ブラジル)、「必要的上訴制度の採用を求める」(スイス)、「再審請求等による執行停止効果を保証することにより、死刑判決を受けた者の権利の保護を確保する」(フランス)、「死刑の改革に関する情報に基づいた議論を促進するための包括的なレビューと勧告のための公式機関を指定する」(オーストリア)、「死刑の政策を見直し、死刑執行の一時停止を強く考慮し、死刑の将来における使用についての公的議論に参加する」(カナダ)など、具体的で、より受諾しやすい勧告もあった。

にもかかわらず「日本は、主権を持つ各国が死刑の問題について決定を下すべきだと考えている。国内世論、極めて悪質な犯罪の存在などにより、死刑を廃止することは適切ではない。確定判決は法の支配の下で公正かつ全面的に実行されなければならないので、死刑の一時停止も不適切である。」との意見を述べ、死刑制度に関するすべての勧告を拒否した(Not Accept)。このような頑なな姿勢は、死刑問題が自由権規約6条の保障する生命に対する権利という根本的な人権保障にかかわる問題であるということそのものを否定する非妥協の態度であり、日本政府の人権保障に対するコミットメントに深刻な疑念を呼び起こすものである。

4 国際社会への勧告に死刑執行をもって応答することは許されない
過去2回行われた普遍的定期的審査の結果文書の正式採択後、日本政府は、死刑の執行を行ってきた。すなわち2008年6月12日に第1回審査の結果文書が人権理事会本会合で採択されると、直後の6月17日には3名の死刑確定者の死刑を執行した。また、2013年3月14日に第2回審査の結果文書が正式に採択された翌月の26日にも2名の死刑確定者を執行した。そして、第3回審査の結果文書の正式採択を控えた本年3月14日、法務省はオウム真理教による一連の事件の死刑確定者13名のうち7名を、東京拘置所から他の5つの拘置所(支所)に移送し、翌15日にその旨を明らかにした。法務省は移送理由を「共犯者を分離して収容するため」と説明しているところ、法務省が死刑確定者の移送を明らかにしたこと自体が異例である。また法務省は、「移送は死刑執行と連動しているものではない」と説明しているが、共犯とされる死刑確定者の死刑は同日に執行されるのが通例であり、共犯関係にある死刑確定者を他の拘置所に移送すること自体が、執行準備の第一段階であることには間違いない。また、上記13名の死刑確定者の多くは再審請求中であるところ、昨年7月以降、再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行が繰り返されてきたことは、オウム真理教関係者の執行に向けた準備のひとつではないかと疑う声も上がっている。

現在、日本政府は国連人権理事国であり、みずから招致した「国連犯罪防止会議」が2020年に京都で開催される。国際社会からの呼びかけに対し、オウム真理教関係者に対するものであろうと、その他の死刑確定者に対するものであろうと、死刑の執行をもって応えることは、国際社会において名誉ある地位を占めようとする日本の評価を著しく貶めることとなる。私たちは、日本政府に対して、死刑問題に関する頑なな対話拒否の姿勢を再考するよう求める。仮にも、同時に多数の死刑確定者に対する死刑執行がなされようものなら、国際社会における日本政府に対する否定的評価は、回復可能なまでに低下することは必至である。私たちは、上川陽子法務大臣と法務省に対し、このような企てを、理性の力によって思いとどまるよう、そして、対話への一方を踏み出すよう、強く勧告する。

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