NPO法人監獄人権センター

STATEMENT声明・意見書

マル特無期通達の廃止を求める要請書

声明・意見書

2021年6月17日

検事総長  林 眞琴  殿

NPO法人監獄人権センター

1998年6月18日、最高検察庁は「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(依命通達)」(最高検検第887号・いわゆる「マル特無期通達」)を各地の検事長・検事正に対して発出した。同通達はその後一部改正され、題名・本文の「仮出獄」は「仮釈放」に、「行刑施設」は「刑事施設」に改められている。
マル特無期通達の存在は、2002年1月8日の「朝日新聞」夕刊の報道ではじめて明らかとなった。「朝日新聞」の記事によれば「『マル特』に指定されるのは、動機・結果の悪質性のほか『前科・前歴、動機などから、同様の重大事件を再び起こす可能性が特に高い』などと判断した事件である。具体的には、地検や高検は最高検と協議。指定事件に決まると判決確定直後にまず、刑務所側に『安易に仮釈放を認めるべきではなく、仮釈放申請時は特に慎重に検討してほしい』『(将来)申請する際は、事前に必ず検察官の意見を求めてほしい』と文書で伝え、関連資料を保管する。その後、刑務所や同委員会から仮釈放について意見照会があった際に、こうした経緯や保管資料などを踏まえて地検が意見書を作成する。」とのことである。
しかしながら、マル特無期通達は仮釈放審理の適正な運用を阻害するおそれがあるため、直ちに廃止されるべきである。

そもそも仮釈放は、受刑者に「改悛の状」(刑法28条)が認められる場合に許可されるものであるから、刑の執行状況及び刑事施設における処遇状況を見ることなく仮釈放の可否を判断することはできない。
しかし、法務省が公表する統計によると、2010年から2019年までに仮釈放審理が実施された合計352件のうち、検察官が仮釈放について反対意見を述べたものについて仮釈放が許可されたケースはわずか16パーセントであった。これに対して検察官が仮釈放について「反対ではない」との意見を提出した場合、68.8パーセントの割合で仮釈放が許可されている。これほどまでに検察官意見が仮釈放審理に大きく影響している状況において、マル特無期通達に従い一律に検察官意見を刑務所側に伝えれば、その後の仮釈放審理において犯罪の内容等の犯情が過剰に考慮され、本来は処遇の経過や当該受刑者の生活状況、刑の執行状況等、多様な事項を調査して行われるべき仮釈放審理が適正に行われない恐れがある。
同通達本文にも、「検察官としても,無期懲役刑受刑者の中でも,特に犯情等が悪質な者については,従来の慣行等にとらわれることなく,相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」との文言があり、検察庁がその権限をもって、マル特に該当する無期刑受刑者の仮釈放を厳しく制限する意図が明確に読み取れる。これは検察庁が裁判所の判決を超えて、一片の通達により無期刑よりも重い新たな刑罰を創設しようとするものとの批判は免れない。

改悛の状があり、再犯のおそれがなくなっても出所できないような仮釈放の運用は、受刑者の更生意欲を阻害し、本人の処遇に重大な影響を及ぼす可能性が高いといわなければならない。
そもそもマル特無期通達が発出された背景には、発出当時、有期刑の最長期である20年(併合罪の場合30年)を下回る服役期間で仮釈放が許可される無期刑受刑者が相当数存在したことがある。同通達発出後、無期刑受刑者の服役期間は長期化し、現在では30年未満で仮釈放が許可される例は皆無である。したがって、通達が発出された当時のような事情は現在では存在せず、同通達を維持する理由はもはや認められない。

以上より、当センターは、検察庁に対して、マル特無期通達を直ちに廃止するよう求める。

以上

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