再審法改悪に強く反対する声明
2026年3月23日
NPO法人監獄人権センター
再審法改正をめぐって、恐ろしい逆流が始まり、再審の扉を固く閉ざす方向での改正が、この国会で強行されようとしている。
袴田さんの死刑台からの生還、遅すぎた無罪判決への疑問から、えん罪被害者たちから法改正を求める声が上がり、超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が結成された。議連には自民党議員も多数参加していたが、議連案は自民党の党決定に至らず、野党6党(立民、国民、共産、れいわ、社民、参政)が衆議院に「再審法改正法案」を昨年提出した。
このような国会議員の動きによって、検察の権限を制約する再審法改正が成立するという危機感を持った法務省は、「法制審議会―刑事法(再審関係)部会」の場で、この議員立法とは正反対の、ほとんど改悪といえる要綱案を答申させ、これを総会にかけ答申した。法制審は検察官によって仕切られているが、総会では日弁連の委員以外の委員からも反対の意見が出された。
法制審総会で採択された要綱(骨子)は、日弁連も述べている通り、「再審法改正の本来の目的に反し、えん罪被害者の救済を迅速かつ容易にするものとなっておらず、かえって今まで以上に困難にしかねない内容を含んでいる。」と言わざるを得ない。この答申に基づく再審法改正案に、監獄人権センターは、以下の理由により強く反対する。
1 再審の請求についての調査手続と審判開始の制度(スクリーニング制度)の導入に強く反対する
その問題点の第1は、要綱(骨子)が、「再審の請求についての調査手続」をあらたに設けたことである。再審の請求を受けた裁判所は事件について調査し「再審の請求の理由がないことが明らかである」と認めるときは、事実の取調べや証拠の提出命令を行うことができず、直ちに再審請求を棄却することが義務付けられた。
はじめから無罪を明らかにできるような新証拠が見つかっている再審請求事件はない。有名な再審事件でも、最初から「決定的な新証拠」があったわけではない。死刑再審決定にたどり着いた、免田事件や財田川事件も、本人による申し立ては何度も棄却され続けていた。袴田事件の「5点の衣類」や、福井女子中学生殺人事件のテレビ番組の問題も、最初から「怪しい」とは言われていたが、決定的に無罪を明らかにする新証拠は、裁判所の強い求めに応じて、検察が開示した証拠の中から見つかったのである。
この調査手続の段階では、裁判所は証拠の提出命令を行うことが禁止され、事実の取り調べもできない。書面審査だけで再審請求が速やかに棄却されてしまいかねないのである。再審の扉を固く閉ざすスクリーニング制度の導入に強く反対する。
2 証拠開示については、主張立証を準備するために必要な証拠については、幅広く開示されなければならない、証拠の一覧表も開示される必要がある。職権での証拠開示命令制度も必要である。証拠開示命令に対する検察官による抗告の制度は不要である
第2に、要綱(骨子)は、証拠開示について、その対象を「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」であって、「その関連性の程度その他の当該再審の請求についての裁判をするために提出を受けることの必要性の程度並びにその提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認める」ものに厳しく限定してしまった。
しかし、その証拠が無罪につながる証拠であることが裁判所から見て、一見して明らかな場合などはほとんどない。再審請求人や弁護人による検討、それを踏まえた専門家の協力や実験などを通じてその証拠の明白性が証明されるに至るのである。であるから、再審請求人や弁護人がその主張立証を準備するために必要な証拠については、幅広く開示されなければならない。さらに、証拠開示請求の手がかりが得られるよう、検察官が保管又は保存する証拠の一覧表も開示される必要がある。さらに、裁判所が事案解明を進めるために必要と認めるときは、職権での証拠開示命令制度も必要である。答申にはこのような制度が欠けている。
さらに、日弁連の意見では指摘されていないが、証拠開示命令に対して、検察官が抗告できるものとしている点も問題である(議連の法案も同様の問題点がある)。このような制度のもとでは、二つの裁判体が連続して証拠開示が必要であると考えなければ証拠開示が実現されないこととなる。現実の裁判所で、積極的に証拠開示を進めようとする裁判体に遭遇することは極めてまれだ。証拠開示命令に対する抗告を認められると、現行の証拠開示勧告による運用をさらに狭めてしまう可能性が高い。証拠開示命令に対する抗告の制度は不要である。
3 開示証拠の目的外使用を罰則で禁ずることに反対する
第3に、要綱(骨子)は、弁護人が検察官から提出を受けた証拠をコピーしたときは、その証拠のコピーを再審請求の手続又はその準備等に使用する目的以外に使用することを罰則で禁止している。しかし、禁止される行為の範囲は明確ではない。例えば新証拠の獲得に向けた活動において開示証拠を支援者に交付したり、再審事件を報道する番組の制作などに証拠を提供することにも障害となるだろう。再審請求人と弁護人の防禦活動を萎縮させるおそれがあり、えん罪被害者の救済を困難にするものだ。
4 検察官による再審開始決定に対する不服申し立ての制度は禁止するべきである
第4に、要綱(骨子)は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止していない。袴田事件、福井二中事件の経過を見ても、再審開始決定に対する検察官の不服申立ては、再審請求人に過大な負担を強いており、日野町事件のように、請求人本人が、再審開始決定の確定を待たずに死亡した痛ましい例も報じられている。
また、福井事件の第1次再審請求では、検察官は、自らの主張と矛盾する重要な証拠を隠したまま、再審開始決定に対して不服申立てを行い、その結果、再審開始決定が誤って取り消されるという事態が生じていた。このような不正義を防ぐためにも、再審開始決定に対する検察官の不服申立ては、必ず禁止されるべきである。
以 上
