妊娠期の女性被収容者への手錠使用禁止の徹底および刑事施設における子の養育の実施を求める声明
2024年5月13日
NPO法人監獄人権センター
小泉龍司法務大臣は、2024年2月8日、衆議院予算委員会にて、2014年に出産時の女性被収容者に対する手錠の使用をほぼ全面的に禁止する通知が発出された後も、これに違反した例が6件(2014年から2022年の間)あったと答弁した。
監獄人権センターでは、東京拘置所在監の妊婦が施設外の医院で出産するにあたり、陣痛促進剤の使用を迫られ、入院中も手錠をかけられていたことが明らかになったことを受けて、2005年9月、当時の法務大臣に対し、アムネスティ・インターナショナルと共に質問状を送っている。
これに対し、当時の法務省矯正局長は、矯正施設の被収容者が出産した場合、子については個々の状況に応じた適切な措置を講じており、国際的な人権諸基準に触れるものではない、陣痛促進剤の使用は医師の適正な判断の下で行われており、強制的に使用するような取り扱いは行われていない、現行監獄法(当時)においても、新法においても被収容者が子の携帯を希望し、必要があると認める場合には、矯正施設内で子を一定期間養育できる旨の規定があり、未決被収容者の権利が侵害される結果は生じないものと考えていると回答した。
しかしながら、新法施行後、20年近く経った現在においてもなお状況は改善されていないことは遺憾であると言わざるを得ない。
妊娠および出産時の拘束具の禁止は、国際基準に反する。マンデラ・ルールズでは、「拘束具は、女性に対し、分娩中あるいは出産直後には決して用いてはならない。」(規則48)と定めており、バンコク・ルールズでは、「一部の国では、病院への移送、婦人科検診及び出産の際に、妊婦に手錠などの身体拘束具が使用されている。この行為は国際基準に違反している」(規則54)としている。
特に乳児期においては、子の心身の健全な育成のために、実母による養育が非常に重要であることは言うまでもない。事案によっては、子の乳児期においては、子の養育のために、刑の執行停止制度を活用すべきだ。少なくとも、乳児の間は、刑事施設内であっても母子が共に過ごせるようにするべきである
母と子の不当な分離は、母親の更生のみならず、子の健全な育成にも重大な影響を与えかねない。
スペインではこうした考えに基づき、マザーズユニット(母子寮)といわれる子に配慮した家庭的な刑事施設がある。当該施設では、子は施設外の保育園に通い、被収容者である母はその送り迎えができる環境が整えられている。刑事施設は子が健全に成長するには不適切な環境であるとの批判もあるが、それは刑事施設が子の育成にそぐわない環境であることが前提である。施設の工夫により、子への悪影響は防ぐことができる。
日本においても、法律上は刑事施設内の子の養育は可能となっている(被収容者処遇法66条)。法律上は、刑事施設内の子の養育は、被収容者から養育の申し出があり、刑事施設の長が相当と認める場合には子が1歳に達するまで認められる。また、子が1歳に達した後も、被収容者から引き続いて刑事施設内で養育したい旨の申し出があり、特に必要があるときは、6か月に限り養育の延長が認められるとある。
しかしながら、法務省の統計によると、2009年~2017年にかけて、女性被収容者の出産件数は184件だったが、2011年~2017年にかけて刑事施設内で乳児の養育を認められたのは3件にしか過ぎなかった。
また、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)の調査によると、HRWがインタビューをした女性元受刑者のほとんどが、子の養育ができる制度があることの説明を受けておらず、当該制度を知らなかったと回答している(HRW報告書『「人としてあつかわれていない」日本の女性受刑者に対する人権侵害』2023年11月発表)。
制度の説明がない以上、被収容者は施設内養育の要件である申し出ができない現状では、制度が骨抜きとなってしまっている。
日本政府は、出産時の女性被収容者への手錠使用について、従来の通知により禁止されていた「出産のために分娩室等に入室している間」「授乳、抱っこ、沐浴及びおむつ交換等で子と接している間」に加えて、2024年3月18日に、出産する女性被収容者に対して刑事施設から医療機関に護送する間なども使用を控えることを求める通知を発出した。今回の通知の改訂は国際基準に沿うものであり評価できる。今後は、これまでのような通知を反した運用がくれぐれもないように求める。
女性被収容者の乳児の養育については、上述のとおり、いまだ問題が残っている。監獄人権センターは日本政府に対し、引き続き女性被収容者の処遇の改善を求める。